22/08/1999
最近ではイタリア物のCDも比較的入手し易くなってきていますが、その反面多数アルバムを発表しているアーティストの物はどの作品から聴いていいのか迷うこともあるかと思います。実際、作風の振幅が大きいアーティスト場合には最初に聞く作品でそのアーティストの印象が大きく異なり、幸福な出会いになることもあれば不幸な出会いになることもあります。そこで、イタリアの5大バンドについて私が最初に聴いた作品について、その後の印象も含めて紹介します。
アーティスト名 / アルバム・タイトル (リリース年)
レーベル名, レコード番号. (収録曲数) Banco del Mutuo
Soccorso / Canto di primavera (1979)
ヴァージン・ジャパン, VJD-5014 (国内盤廃盤). (全8曲) 私が最初に聞いた Banco の作品は8作目に当たる "Canto di
primavera" でした。私が持っていたLPのジャケット(Dischi
Ricordi の廉価盤レーベル Orizzonte
盤)にはメンバー写真が載っていなかったので、まさかこの美声の持ち主
(Francesco di Giacomo)
があの巨漢のおじさんだとは思いもよりませんでした。内容的には同時期の
Pooh / Viva, PFM / Suonare suonare
同様、トラディショナルなメロディを持った地中海の香り溢れるサウンドになっています。その中でこの作品の特徴はいかにも
Banco
らしい緻密なアレンジによる豊穣な音空間を演出しているところです。各種民族楽器を使用し、かつてないほどにヴォーカルの比重が高く、歌心溢れる作風になっていますが、ポップな方向に流されずにプログレとしても完成度が高くなっています。ただし、Banco
のサウンドの大きな特徴であるクラシカルな要素は本作にはあまりありません。そういったサウンドが好みの向きにはファーストからサード辺り(Banco
del Mutuo Soccorso, Darwin!, Io sono nato libero)と "Come in
un'ultima cena" が気に入ると思います。個人的には Banco
の全作品中本作が一番気に入っています。本作はイタリア盤で現在も入手可能です(Virgin
Italiana から出ています)。 New Trolls / Atomic
system (1973) キング, KICP 2817 (国内盤). (全7曲) この作品は当時キングのユーロロックコレクションの最新リリースだったものを購入しました。名作と名高い
"UT" 発表後2つに分裂してしまった New Trolls
のグループ名の使用権を獲得した方 (Vittorio De Scalzi)
の最初の作品でオリジナルのベーシストの Giorgio D'Adamo
が復帰しています。内容の方は Vittorio
の指向が反映されたジャズとバロックの要素がふんだんに盛り込まれたダイナミックなものとなっています。New
Trolls
の全作品中最もシンフォニック色が強く、またジャケットを含めほのかなサイケデリック色もあります。ダイナミックな分、多少荒削りなところがありますが、新たな第一歩を踏み出した彼らの勢いを感じることができます。また、日本盤LPとCD化されたもの全てにクラシックの名曲「禿げ山の一夜」のロックアレンジされた曲が追加収録されています。New
Trolls
は作風の振幅がとても大きいのですが、プログレファンには本作や
"UT" を、歌ものファンにはワーナー時代の2作品(Aldebaran, New
Trolls)や最新作の "Il sale dei New Trolls"
あたりがお勧めできます。 Le Orme /
Smogmagica (1975) Philips, 842 509-2. (全9曲) 私が最初に聞いた Orme の作品はこの "Smogmagica"
でした。それまでのキーボードトリオスタイルから脱却し、ギタリストを加えた4人編成になっています。作風もそれまでの陰影に富んだ幽玄なサウンドから、ウェストコーストを意識したような明るめのものへと変わっています。歌メロは相変わらずたおやかな
Orme 節なのですが、アレンジがそれまでの Orme
らしさが感じられないものになっています。私も最初に本作を聞いたときにはあまりピンと来ませんでした。少なくとも最初に聞く作品としてはあまりお勧めできません。ただし出来が悪いという訳ではなく、曲自体は非常に魅力的です。以前紹介した再録盤の
"Amico di ieri"
にも本作からタイトル曲が収録されており、新しいアレンジで演奏力もアップしたバージョンを聴くことができます。やはり定番の
"Uomo di pezza" や "Felona e sorona"
辺りから聞くのが一番だと思います。また、個人的にはアコースティック編成による
"Florian" "Piccola rapsodia dell'ape"
もとても気に入っています。 Pooh
/ Parsifal (1973) イースト・ウェスト・ジャパン,
AMCE-926 (国内盤). (全9曲) 私が Pooh と出会ったのは1981年の世界歌謡祭に来日した
Gianni Togni が最優秀曲賞を受賞した "Vivi"
の国内盤EPを購入した際にインサートの解説にその名を見つけたことによります。近所のレコード店に行ってみた所、キングのユーロロックコレクションから出ていたこの
"Parsifal" だけ置いてあったので購入しました。一曲目の
"L'anno, il posto, l'ora"
がそれまでに聞いたことがない曲調で非常に衝撃的でした。全体的にはイギリスの
Renaissance の "Novella"
のように歌とオーケストラで構成されたシンフォニック色の強いサウンドで、非常にイタリアらしい味付けがなされており、まさにラブロックの金字塔的アルバムと言っても過言ではありません。Pooh
の全アルバム中、確実にベスト5に入る作品でしょう。私はこの直後、近所の別のレコード店に行って当時の国内盤最新アルバムの
"...Stop"
をゲットし、さらに進化した彼らのサウンドの虜になり、現在に至っております。個人的には
Pooh
のどの作品もお勧めですが、国内盤で入手できる'70年代前半の
"Opera prima" から "Forse ancora poesia"
までの5枚が入門編としてはいいでしょう。その他のマストアイテムとしては前述の
"...Stop" や "Viva", 近作の "Amici per sempre"
などが挙げられます。 Premiata Forneria
Marconi (PFM) / Come ti va in riva alla citta' (1981)
BMG Ariola, 74321 100802. (全8曲) PFM は当時の最新アルバムだった "Come ti va in riva alla
citta'"
から聞きました。完全に邪道な入り方ですが、比較的入手しやすかった国内盤はどれも英語バージョンだったので、これにしたのでした。プログレの人には見向きもされないアルバムですが、初めて聞いた私には結構気に入った内容でした。Pooh
などに比べるとロック色が強く、Franz Di Cioccio (ds) と
Patrick Djivas (b)
のリズムセクションが繰り出すリズム乗りは非常にダイナミックです。乗りのいいロックナンバーが並んでおり、テクニック的にもとても安定しているので、安心して聞くことのできるロックンロールアルバムになっています。プログレの人向きではありませんが、イタリアンポップスが好きな人はきっと気に入ると思います。個人的には前作の
"Suonare suonare" が一番好きですが、やはり "Storia di un
minuto" や "Per un amico" 、英語盤の "Photos of Ghosts" から
"Chocolate Kings"
辺りが一般にはお勧め盤でしょう(これらの英語盤は8月25日にビクターから国内盤が発売されます)。
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