Musicadentro

第85号 (30/06/2007)

梅雨に入ってからも関東地方では雨が少なく真夏のような蒸し暑い日が続いていますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?今回はこの5月から6月にかけてリリースされた新譜を中心にお送りします。

アルバム・カバー

アーティスト名 / アルバム・タイトル (リリース年) レーベル名, レコード番号. (収録曲数)

Forever

Marcella e Gianni Bella / forever per sempre (2007) Nuova Gente, 3001798. (全11曲)

今年のサンレモ音楽祭に兄妹デュエットで参加した Marcella Bella と Gianni Bella のサンレモ参加曲 "Forever per sempre" 含む連名アルバム。大部分の曲が Mogol 作詞 Gianni Bella 作曲で、それぞれのソロ曲を随所に挟みながらデュエット曲中心の構成になっています。ミディアム・テンポの Gianni Bella の曲らしいオープニングの "Vendetta tremenda vendetta" からパンチのある Marcella とやや線の細い Gianni との息のあったデュエットを聴かせてくれます。タイトル曲の "Forever per sempre" はサンレモ向きのバラード曲で、ダイナミックな Marcella と渋めの Gianni との歌声の対比が印象的です。Gianni のソロの "Neanche un giorno di più" はギターの爪弾きに導かれたカンタウトーレらしいフォークタッチの曲で、渋めのヴォーカルをしみじみと堪能できます。Marcella のソロの "Apri il cuore" はR&Bからの影響を感じさせるコーラスを従えたバラード曲で、年齢を感じさせない官能的なヴォーカルを楽しめます。アルバム・ラストはレーベル名にもなっている Gianni の "Nuova gente" の1983年に録音されたアンプラグド・バージョンで締めくくられています。目新しさはないものの、ベテランらしい安定感と職人技が光る良作に仕上がっていると思います。初回盤はパッケージが4面開きのデジパック仕様となっています。

Giua

Maria Pierantoni Giua / Giua (2007) Camion Records, 88697113122. (全10曲)

2003年にデビューした Genova 近郊 Rapallo 出身で1982年生まれの若手カンタウトリーチェ Giua こと Maria Pierantoni Giua のファースト・アルバム。作詞は共作で作曲は全曲本人の手によるものです。また、ほぼ全曲でギター(クラシック中心)を本人が演奏しています。Genova 出身の大御所である故 Fabrizio De André 直系とも言うべきギターの弾き語りをベースとしたフォーク・サウンドはイタリアの女性アーティストでは貴重な存在です。ギターとパーカッションが織りなすリズムがトラディショナルな雰囲気を湛えたオープニングの "Si abbassa la luna" から伸びのあるヴォーカルとアコースティック楽器を中心とした演奏との相性が抜群で、シンガー・ソングライターの王道とも言うべき作風に圧倒されます。続く "Aprimi le braccia" でも落ち着きのある歌声とギターの爪弾きとの絡み合いが暖かみのある音像を感じさせます。ギターの爪弾きとチェロの調べによるゆったりとしたバッキングに乗せて囁くように歌われる "Morbidamente" では詩情溢れる染み入るような哀愁を感じさせます。スパニッシュ風のギターに導かれた "Terra e rivoluzione" ではリズミカルな演奏に乗せてトラッドからの影響を感じさせるメロディを爽やかに歌い上げています。年齢のわりにはかなり落ち着きのある作品に仕上がっていることもあり若手らしくない部分もないではありませんが、この手の女性アーティストが少ないこともあり今後の活躍に期待が持てるのではないでしょうか。

74

Conqueror / 74 Giorni (2007) Ma.Ra.Cash Records, MRC 013 CD. (全13曲)

2003年にデビューした若手シンフォニック・ロック・バンド Conqueror の約1年半振りのサード・アルバム。前作からベーシストが交代して Simona Rigano (vo, key), Tino Nastasi (g, b), Sabrina Rigano (fl, sax), Daniele Bambino (b), Natale Russo (ds, per) の5人編成となっています。今回はコンセプト・アルバムとなっており、アルバム冒頭の "Maschere di uomini" はフルートのオブリガートも印象的なシングル・カットしてもいいくらいの美しいメロディを持ったヴォーカル曲になっています。続く海鳥の鳴き声に導かれた "Il viaggio" では一転してロング・トーンを多用したギターと多彩な音色のキーボード・ラビリンスが交錯した短いながらも構築的なインスト曲になっています。サックスの軽快な音色に彩られた "Limbo" ではやや線の細いヴォーカルによる静とサックスによる動との対比が印象的です。ややハードなギターのリフで始まる "Preghiera" は力強いリズムに乗せて高らかに歌い上げる彼らにしては珍しいロック色の強い曲になっています。9分を越える大曲の "Nebbia ad occhi chiusi" では畳み掛けるリズムに多彩な音色のキーボード・ラビリンスが絡み合い、繊細なヴォーカルとクラシカルな響きを湛えた管楽器が織りなす染み入るような叙情性が感じられる彼ららしい曲に仕上がっています。ラストの "Cambio di Rotta" では攻撃的なサックスとミステリアスな音色のキーボードが絡み合い、アップテンポな歌メロと叙情的なインスト・パートとの対比が印象的です。アルバムを経る毎にスケールが大きくなっているように感じるので今後が楽しみです。

Chiave

Micol Barsanti / La chiave del sole (2007) Soleluna Music, 1732344. (全10曲)

1983年生まれのGenova 出身の新人カンタウトリーチェ Micol Barsanti のデビュー・アルバム。ほとんどの曲で共作を含め作曲を手掛け、作詞は主に Cecilia Dazzi によるものですが、一部の曲では本人も作詞をしています。最近の若手らしくラップや Hip Hop の要素を大胆に取り入れながらもロック系の女性アーティストとして大御所 Gianna Nannini からの影響が随所に垣間見られます。リズミカルな管楽器に導かれたオープニングの "Entra nel cuore" はミドルテンポながらロック色の強い曲で、哀愁を帯びたストリングスを中心としたオーケストラをバックに力強く歌い上げる様が印象的です。続く "Rido al cielo" では Hip Hop からの影響を感じさせるリズミカルなヴォーカルと時折切れ込んでくるストリングスとの対比が不思議な雰囲気を醸し出しています。アコースティック・ギターによるリフに乗せて歌われる "D+" ではブルース色を感じさせるやや泥臭いヴォーカルを聴かせてくれます。フォーク・タッチの "Minnamori" ではアコースティック・ギターの爪弾きをバックにしっとりとした哀愁のある歌声を聴かせてくれます。"La farfalla" では哀愁を帯びた音色のアコーディオンを中心としたバッキングに乗せてしっとりと歌い上げています。アルバム・ラストには "Entra nel cuore" の別バージョンがボーナス・トラックとして収録されています。

Sponda

Eugenio Bennato / sponda sud (2007) Lucky Planets, LKP 712. (全10曲)

NCCP や Musicanova での活躍で有名なナポリ・トラッド界の大御所 Eugenio Bennato のオリジナルとしては5年振りとなるニュー・アルバム。曲毎に多数のゲスト・ヴォーカルを迎えて制作されています。オープニングのタイトル曲 "Sponda sud" ではアコースティック・ギター中心のシンプルなアレンジをバックに、エチオピアの子供達によるコーラスを従えて北アフリカを彷彿とさせるトラディショナルな雰囲気を湛えたメロディを紡ぎだしています。"Ritmo di coqntrabbando" ではイスラム圏を思わせる早口のコーラスや女声コーラスを導入し、北アフリカの影響を感じさせるトラッド色の強い曲に仕上がっています。トラッド曲であるフォーク色の強い "Lucia e la luna" ではアコースティック・ギターの爪弾きに乗せて語りかけるような優しいヴォーカルを聴かせてくれます。かつての盟友 Carlo D'Angiò が曲を提供している "Italia minore" は Angelo Branduardi にも通じるファンタジックなかわいらしい感じの曲で、軽やかなヴォーカルが紡ぎ出す寓話的な雰囲気が印象的です。"Alla festa della taranta" は彼のライフワークとも言うべき南イタリアの伝統舞曲 Tarantella のリズムを導入した軽快なダンス・チューンに仕上がっています。金属的な音色のギターに導かれたアルバム・ラストの "Angeli del sud" では北アフリカ風のコーラスを従えて穏やかな歌声でじっくりと歌いかけてきます。決して派手さはないもののベテランらしい味わい深い作品になっていて、トラッド色のあるものに興味がある人には入門編としてもお薦めです。

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