Musicadentro

第82号 (04/03/2007)

早くも春めいてきましたが皆さんいかがお過ごしでしょうか?今回は復活した Delirium のライブ盤や一つの頂点を極めた Franco Battiato の新作をはじめ今年リリースされた新譜を中心にお送りします。

アルバム・カバー

アーティスト名 / アルバム・タイトル (リリース年) レーベル名, レコード番号. (収録曲数)

Vibrazioni

Delirium / Live - Vibrazioni Notturne (2007) Black Widow, BWRCD 100-2. (全13曲)

初期には Ivano Fossati も在籍したことで知られる'70年代前半に活躍した Genova 出身のロック・バンド Delirium が昨年復活してシングル発表後に行なわれたライブの模様を収録したライブ盤。メンバーは'74 年のアルバム "III: Viaggio negli arcipelaghi del tempo" 制作時の中心メンバー "Ettore Vigo (key, vo), Martin Grice (fl, sax, key, vo), Pino Di Santo (ds, vo) の3人に Roberto Solinas (vo, g), Fabio Chighini (b, vo) を加えた5人編成となっています。選曲はファースト "Dolce acqua" とセカンド "Lo scemo e il villaggio" からが中心で、アルバム未収シングルや最新シングル曲など新旧取り混ぜて彼らのキャリアを俯瞰するようなステージとなっています。オープニングからの長いイントロに引き続いて演奏される "Villaggio" では畳み掛けるようなリズムセクションに乗せて攻撃的なフルートが舞い上がり、中間部ではジャジーな展開を見せるなど硬軟取り混ぜたベテランらしい充実した演奏を聴かせてくれます。一方で、"Preludio: Paura" では寂しさを感じさせるフルートと美しいコーラスによって叙情的なメロディをしっとりと歌い上げられています。また、彼らのルーツ音楽の一つである Jethro Tull のメドレー (選曲が Boureé と Living in the past といったところが通好み) でのテクニカルなフルート・ソロや最新シングル "Notte a Bagdad" でのアラブ色のあるエキゾティックなメロディなど聴き所が満載です。年内に発売が予定されているという新作オリジナル・アルバムに期待が膨らみます。

Vuoto

Franco Battiato / il vuoto (2007) Mercury, 1722972. (全9曲) CD-Text

御大 Franco Battiato のオリジナル作品としては約2年振りとなる最新アルバム。本作でも前回のライブ盤で共演していた FSC をはじめ UZEDA や MAB といった若手バンドをバックに従え、Royal Philharmonic Orchestra とともに緻密な音空間を作り上げています。オープニングの "Il vuoto" からMABのメンバーをコーラスに従え、生のストリングスとエレクトロニクスが混ざり合った Battiato 流ロックン・ロールを聴くことができます。"I giorni della monotonia" ではエフェクトの掛かった囁くような歌声に柔らかいストリングスが絡みつき、クールな音空間と淡い叙情性を演出しています。ギターのカッティングに導かれた "Aspettando l'estate" では語りかけるようなヴォーカルと柔らかい音色のオーケストラが生み出す静謐な音空間が印象的です。"Tiepido aprile" では包み込むようなストリングスをバックに哀愁のあるメロディを切々と歌っています。端正なピアノとストリングスを従えて歌われる "Era l'inizio della primavera" はBattiato によるイタリア語詞とMABのメンバーによる英詞の対比が生み出す不安定な叙情性とでもいった儚い美しさが滲み出す佳曲になっています。ラストの "Stati di gioia" ではオーケストラとエレクトロニクスが渾然一体となった一大音響空間が繰り広げられ、静謐な中にも淡い叙情性を感じられます。全体としてここ数年の彼の作品の魅力を凝縮したような素晴らしい作品に仕上がっています。収録時間も30分強と非常に潔い感じが彼らしいです。

AlDiLa

Marina Rei / Al di là di questi anni (2007) OTR Music, OTR 24. (全14曲) CD-Extra

すでに10年以上の活動歴を誇るパーカッション奏者でもあるカンタウトリーチェ Marina Rei の新作であるスタジオ・ライブ・アルバム。ライブ盤とはいっても観客もいないためスタジオ一発取りの新録ベスト盤といった方がいいかも知れません。バックはピアノ・キーボードにギター、弦楽四重奏といった比較的シンプルな編成で、いつも以上に彼女のパーカッションが大々的にフィーチャーされています。ピアノによるシンプルなバッキングに乗せて始まるオープニングの "I miei complimenti" ではしっとりとした歌声で哀愁のあるメロディを歌い上げています。彼女の奏でるパーカッション類が大活躍する "Inaspettatamente" では躍動感のあるリズムに乗せて北アフリカを想わせるエキゾティックなメロディが印象的です。きらびやかな音色のピアノのアルペジオに乗せてしっとりと歌われる "T'innamorerò" では囁きかけるようなヴォーカルと染み入りようなメロディが織りなす叙情が感じられます。"Un inverno da baciare" では力強い歌唱に導かれて徐々にパーカッション類が勢いを増していく様が非常にドラマティックです。弾むようなピアノの調べに乗せて歌われる "Colpisci" では力強いリズムを刻むパーカッションと哀感のあるヴォーカルとの対比がメロディの美しさを引き立てています。ラストの "Le stelle" ではギターの爪弾きによるシンプルなバッキングと包み込むようなストリングスのサポートを受けながらしっとりとした歌声を聴かせてくれます。

Lacrime

Notabene / Sei lacrima d'ambra (2007) Mellow Records, MMP 496. (全6曲) CD-Text

2005年にデビューした若手シンフォニック・ロック・バンド Notabene のセカンド・アルバム。メンバーは6人編成だった前作からの Andrea Alberici (vo, cho), Gianluca Avanzati (b), Daniele Manerba (key, cho), Gustavo Pasini (ds, vo) の4人に新加入の Giampietro Maccabiani (g, mandolin) を加えた5人編成になっています。最終曲でも同じテーマが用いられるオープニングの "La revolution bourgeoise (parte 1)" から畳み掛けるリズムセクションときらびやかな音色のキーボードに乗せて男性的なヴォーカルが力強く歌い上げるという'70年代型イタリアン・ロックの王道を行く典型的な音作りがなされていて、ある意味感動を覚えます。10分を越える大曲の "Le mistificazioni dell'ombra" でも物語的に曲が展開していき、ロングトーンを多用したギターや多彩な音色のキーボードが曲を盛り上げています。小品の "Maschera di cera" ではアコースティク・ギターの爪弾きに乗せた叙情的なヴォーカル・パートやハケット・スタイルのギターソロ、ギターとピアノの掛合いなど短いながらも展開の多い曲構成になっています。シアトリカル・ロック的な展開を見せる "Sei lacrime d'ambra" では演劇的な歌い回しやフルート音色のキーボードにマンドリン・ソロなどめまぐるしい展開に圧倒されます。2つの組曲 "Il treno di Obuda" と "La revolution bourgeoise (parte2)" でも複雑な曲構成に静と動の対比、畳み掛ける演奏など在りし日のイタリアン・ロックに対する愛情がたっぷり注がれたドラマティックな曲に仕上がっているのが好感が持てます。

Assenso

Epo / Silenzio assenso (2007) Brend'r, blendr004-1. (本編10曲+ボーナス2曲) CD-Text

2000年から活動している5人組の若手バンド Epo の3枚目となるニュー・アルバム。メンバーは Mario Conte (key, p), Alessandro Innaro (b, key), Peppe Innaro (SE), Daniele Parascandolo (ds), Ciro Tuzzi (vo, cho, g, mandolin) となっています。きらびやかな電子音に導かれて始まるオープニングの "Pezzo commerciale estivo" から気だるいヴォーカルと深く沈み込むようなサウンドを中心とした内省的なロックを聴かせてくれます。軽快なギターに乗せて囁きかけるように歌われる "In cattività" ではバックを盛り立てるピアノがいいアクセントになっています。ピアノとパーカッションをバックに物憂げに歌われる "Collins" は中間部での浮遊感のあるギターの音色が幻想的な雰囲気に彩りを添えています。歪んだ音色のギターのリフで始まる "Qualcosa è cambiato" は早口のヴォーカルとヘビィなサウンドの対比が印象的なロック・ナンバーです。ギターのコードカッティングに乗せて歌われる "Primo raggio di sole" は明るめのロック・サウンドで、軽快かつ爽やかな歌声を楽しめます。美しい音色のギターによるアルペジオとせわしないドラミングをバックに歌われる "Neve" では叙情的なメロディと後半のカオスティックな展開の対比が印象的です。ヘビィな音色のギターとオルガンによるハードロック・ナンバー "Catarì" ではブルース・フィーリング溢れるヴォーカルを聴かせてくれます。イタリア色はそれほど強くないものの、多様な音楽性を聴かせてくれる今後が楽しみなバンドだと思います。

ご意見ご感想などあれば以下にご連絡ください。

ただし、メール・アドレスは画像になっていますのでご了承下さい。

音楽の部屋に戻る

バックナンバー・ホームに戻る