すっかり春めいてきましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。今回はサンレモ音楽祭直後ということもあり、新譜関係はまだあまり入手できていないので、本来なら特集号にしてもいいような渋いラインアップにしてみました。
アルバム・カバー
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アーティスト名 / アルバム・タイトル (リリース年)
レーベル名, レコード番号. (収録曲数)
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Rossana Casale /
Strani Frutti (2001) NIKTO, NIKCD 004. (全12曲)
ジャズとポップスの2足のわらじを履く女性ヴォーカリスト
Rossana Casale
のニューアルバム。ジャズを中心としたスタンダードナンバーを取り上げたカバー・アルバムとなっており、ピアノ、コントラバス、テナー・サックス、ドラム、パーカッションにストリングスを加えたアコースティック・アンサンブルをバックに彼女のコケティッシュなヴォーカルが冴え渡っています。オープニングの
"Overture (scomponendo)"
はストリングスの艶やかな調べが印象的なインスト・ナンバーとなっています。続く
"Volesse il cielo" は Mia Martini
の曲で、囁くような歌声とサックスの絡みが哀愁感を醸し出しています。Marylin
Monroe の歌で有名な "My heart belongs to daddy"
でも彼女のコケティッシュなヴォーカルとジャージーな演奏がアンニュイな雰囲気を生み出しています。Billie
Holiday の歌唱で知られている "Strange fruit"
では彼女としては低い音域のヴォーカルで作品の持つ深い重みをじんわりと表現しています。Janis
Joplin の "Summertime"
はジャージーなアレンジと高音部を生かした彼女のヴォーカルによって原曲とはかなり異なるイメージに仕上がっています。その他にも
Barbara の "Nantes" に伊詞を付けた "Piove su Nantes" や
Edith Piaf の "L'accordeoniste" のカバー曲 "Il
fisarmonicista"
などかなり意欲的な選曲がなされており、完成度も高く大人の鑑賞に堪えうる絶妙な作品となっています。
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Antonella Ruggiero -
Arké Quartet / luna crescente [sacrarmonia]
(2001) Columbia, COL 505272 2. (全13曲)
初代 Matia Bazar の歌姫 Antonella Ruggiero
の新譜は弦楽四重奏 Arké Quartet
との共演盤となっており、オリジナル曲とクラシックなどのカバー曲で構成されています。バンド時代に特徴的だったダイナミックかつアクロバティックなヴォーカルスタイルは本作では影を潜め、大人のヴォーカリストとしての落ち着きのある作品になっています。オープニングのオリジナル曲
"Corale cantico"
は静謐な雰囲気の中、クラシックを意識した彼女のヴォーカルが艶やかなストリングスの上を流れる様が美しいです。パーカッションを加えたアレンジが新鮮な
"Kyrie (Missa Luba)"
ではバンド時代を彷彿とさせる低音部から高音部にまたがるダイナミックなヴォーカルを聴かせてくれます。あまりにも有名すぎる
Gounod のアリア "Ave Maria"
では以前の彼女からは想像できないほどの包み込むような柔らかな歌声が印象的です。また、"God
rest you merry gentlmen" や "Aria sulla IV
corda"(G線上のアリア)でのストリングスをバックにしたヴォーカリゼーションなど意欲的な取り組みも聴かれます。彼女のヴォーカルスタイルが完全に生かされているとは言い難いものの、宗教色のあるクラシック作品を中心とした作風は一聴の価値があると思います。
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Massimo Ranieri / oggi
o dimane (2001) S4, 501998 2. (全16曲)
ベテランヴォーカリスト Massimo Ranieri
の最新アルバム。新旧取り混ぜたナポレターナのカバー・アルバムとなっており、1700年から1959年までの幅広い時代から選曲されています。彼は基本的には熱唱タイプのシンガーなのですが、本作では落ち着きのある抑えたヴォーカルを聴かせてくれます。プロデュースは
Mauro Pagani
で、演奏面でもバイオリンやブズーキなどで大活躍しています。ブズーキの爪弾きで始まるオープニングの
"Nuttata 'e sentimento"
からシンプルながらもきらびやかな弦の音色に乗せて歌われる哀愁のあるヴォーカルが印象的です。"'E
spingule francese" では Fabrizio De André
にも通じるトラッド色のあるコーラスが楽しげな曲を盛り上げています。Fausto
Leali が "Leapoli" で取り上げたことでも知られる
"Scalinatella" ではアラビア色のある Mouna Amari
のコーラスをバックに落ち着きのある歌声を聴かせてくれます。年代的には一番新しい
"Caravan petrol" は非常に地中海トラッド色のあるアレンジで
NCCP に通じるものがあります。また、最も古い "'O Guarracino"
ではトラッド特有の笛の音と Fabrizio De André
を思わせる早口のヴォーカルの対比が印象的です。彼の作品としてはかなり異色だとは思いますが、非常に完成度も高くナポレターナの入門編としてもお勧めできます。
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Jenny Sorrenti /
Medieval Zone (2001) Celtica Napooletana Records,
CN001. (全13曲)
稀代の個性派カンタウトーレ Alan Sorrenti の妹にして Saint
Just のヴォーカリストだった Jenny Sorrenti
の約22年ぶりとなる久々のソロアルバム。彼女のルーツミュージックである地中海およびケルトの伝統音楽をもとに、自作曲を加えて制作されています。かつては不安定さが売りだった彼女のヴォーカルも長い年月を経て大人の女性らしい落ち着きのあるものに変化しており、1曲目のトラッドのアレンジものである
"El rey de Francia"
からヒーリング系とは一味異なる彼女の艶っぽいヴォーカルが静謐な曲に新たな彩りを加えています。続く自作曲の
"Amar amigo" では Lino Cannavacciuolo
のエレキ・バイオリンと彼女のヴォーカルとの絡みが絶品で、幻想的な曲の雰囲気とマッチしています。アルバムタイトル曲
"Medieval zone"
は自作のインスト曲で、トラッド色溢れるリズミカルな演奏に彼女のヴォーカリゼーションが絶妙な絡みを見せます。アルバムラストにはファーストソロアルバムのタイトル曲
"Suspiro" の再録が収録されており、ゲストの Pino Daniele
のギターを聴くことができます。また、"La belle se sit"
のマルチメディア・トラックが収録されていますが、これは Mac
では再生できないようです。
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Gigliola Cinquetti /
Stasera ballo liscio (1973) CGD, 9031 70236-2.
(全13曲)
日本でも「オーラ」の愛称で知られる'60年代アイドルの1973年発表の異色作。全編に渡ってタンゴ・アレンジが施されており、時折拍手が入るなどダンスホールでのライブ感覚を模した作りになっています。イントロの
"Dinah" に引き続いて演奏される "Tango delle capinere"
から典型的なタンゴに乗せて彼女の艶のある落ち着いたヴォーカルが楽しめます。続く
"Incantesimo"
ではゆったりとした気怠さを感じさせるアンニュイなヴォーカルが印象的です。"Tipi
tipitin" では La Nuova Bologna
を想起させる軽快なダンスチューンに彼女の軽やかな歌声がうまくマッチしています。"La
spagnola"
でも軽やかなタンゴに乗せて表情豊かなヴォーカルを聴かせ、デビュー当時に較べると格段に表現力が増していることを確認できます。"Miniera"
はスネア・ドラムのロールに乗せた凛々しい歌声と艶やかなストリングスのキメが曲にアクセントを付けています。"La
mazulka di carolina"
ではタイトル通りポーランドの舞曲マズルカのリズムを取り入れた軽快で楽しげなダンスチューンに仕上がっています。この時期の作品はあまり日本では取り上げられることがないのですが、非常に魅力的な作品に仕上がっておりお勧めです。
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