Musicadentro

第28号 (20/08/2000)

残暑真っ盛りですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。今回は今まであまり取り上げることがなかったロック系の若手カンタウトーレを中心にベテランの新譜も併せてピックアップしてみました。個人的には Gianluca Grignani の新譜は当たりでした。

アルバム・カバー

アーティスト名 / アルバム・タイトル (リリース年) レーベル名, レコード番号. (収録曲数)

Sdraiato

Gianluca Grignani / Sdraiato su una nuvola (2000) Universal, 542 791-2. (全11曲)

若手カンタウトーレ Gianluca Grignani のニューアルバム。基本的には最近の若手にありがちな英米指向のロックサウンドですが、彼の場合はその声に特徴があり、独特の浮遊感溢れるヴォーカルは非常に魅力的です。特に本作ではスローからミドルテンポの曲が大半を占め、幾分哀愁のある彼のヴォーカルが曲調にマッチしていてとてもいい出来になっています。全曲詞曲ともに彼のペンによるもので、ギターも自身が担当しており、さらにプロデュースおよびアレンジ(ストリングスを含む)も手掛けており、その多才ぶりを遺憾なく発揮しています。オープニングの "Speciale" はゆったりとした曲調のロックバラードで、適度に哀愁感のあるヴォーカルがストリングスのサポートを得てじわじわと盛り上がるドラマティックな曲となっています。"Sincero e leggero" はギターの弾き語り調の曲で、切々と訴えかけるようなヴォーカルが印象的です。派手な曲こそありませんが、アルバム全体が統一されたカラーを持っているので散漫な印象がなく、非常に良くできたアルバムだと思います。CD-ROM トラックを含むエンハンスドCD仕様となっています。

Vorrei

Mariadele / Vorrei (2000) San Marino Performance, SMP 2000-001/CD. (全15曲)

新進女性ヴォーカリスト Mariadele の最新アルバム。たぶん2枚目になると思います。作詞はカバー曲の訳詞も含めて全て彼女自身が手掛けています。1曲目の "Mi arrivi" はブラックコンテンポラリー風のクラブサウンドに仕上がっており、イタリア色こそ薄いもののヴォーカリストとしての力量を示すダイナミックな歌を聴かせてくれます。"Deludermi mai" ではアップテンポな曲に落ち着きのある彼女のヴォーカルが乗る時に醸し出される声のセクシーさが印象的です。"Scivola via con me" はアルバム中唯一といってもいいイタリア的な盛り上げを見せるバラードで、スケール感のあるヴォーカルを聴くことが出来ます。全体的にインターナショナル指向の音づくりで、あまりイタリアらしさはありませんが女性ヴォーカルものとしての出来はとてもいいです。音楽とは直接関係はありませんが、ブックレットには彼女のチャーミングなフォトが多数掲載されています。

Campi

Franco Battiato / Campi Magnetici (2000) Sony Classical, SK 89280 2. (全8曲)

巨匠 Franco Battiato の最新作はカンタウトーレ作品ではなく、前衛バレエのための作品としてクラシック・レーベルからリリースされています。内容的にも1979年の "L'era del cinghiale bianco" 以前のものに近く、サウンドコラージュを多用しノイズやソプラノボイスを交えたアヴァンギャルド色の強いもので、カンタウトーレとしての彼を期待すると肩すかしをくうかも知れません。曲は全て彼によるもので、詞は Manilo Sgalambro が書いています。また、ピアノで盟友 Michele Fedrigotti が参加しており、スタッフとして Saro Cosentino も名を連ねているなど Battiato ファミリーが関わっているので出来が悪いはずがありません。作品の性質から本来はダンスを含めてのものなのでしょうが単体としても充分楽しめる出来になっています(というかこれらの曲で本当に踊れるのか?といった内容ですが)。ほとんどの曲が6〜10分の長尺でシリアス寄りのプログレッシブロックと言っていいような作品が並んでいます。ポピュラーという枠を外れることでほとんどやりたい放題の状態で、奇才 Battiato の才能が爆発したような作品に仕上がっています。

La Vita

Nek / La vita è (2000) WEA, 8573833292. (全14曲)

若手の中でも人気の高いカンタウトーレ Nek のニューアルバム。曲は共作を含め全曲彼自身が手掛けており、作詞は全曲 Antonello De Sanctis が担当しています。また、約半分の曲で彼がベースを演奏しています。彼の場合は前述の Gianluca Grignani よりもさらに英米指向が強く、イタリア語で歌っていなければどこのアーティストか判らない程インターナショナル指向の強いロックサウンドを聴かせてくれます。1曲目の "Ci sei tu" はオープニングにふさわしいアップテンポの勢いのあるナンバーで、冒頭のボサノバ調の導入部から次第にスピード感のあるサビの部分に突入していく格好良さが印象的です。タイトル曲の "La vita è" もギターの絶妙なサポートを得たロック色の強い勢いのある曲になっています。"Pieno d'energia" はオルガンとブラスが盛り上げるファンキーでダンサブルな曲となっています。"Sul treno" では一転してイタリアらしいメロディを持ったヴォーカルラインを聴くことができ、非常に印象的な曲になっています。全体的にイタリア色は薄いものの、ロックの持つ格好良さをうまく表現しているアーティストだと思います。

Tutti

Renato Zero / Tutti gli Zeri del Mondo (2000) Fonopoli, 498489 2. (全14曲)

既にベテランの域に達している元祖ビジュアル系カンタウトーレ(要するにお化粧キャラ) Renato Zero の新作はオリジナルの他、Charles Aznavour, Fabrizio De André, Luigi Tenco などのカバー曲を多数含むバラエティーに富んだ作品となっています。オーケストラによるオープニングのインスト曲 "L'imbarco" のたおやかなメロディが弥が上にも期待を高まらせます。"Il pelo sul cuore" はストリングを多用したゆったりとしたメロディの上を落ち着きのあるヴォーカルを聴かせる非常に彼らしい曲になっています。"L'istrione" はフランスの巨人 Charles Aznavour" のカバー曲で、いかにもフランスらしいドラマ性のある曲を見事に歌いこなしています。"La canzone di Marinella" は Fabrizio De André の代表曲のカバーで、オリジナルよりもさらに語りに近い導入部から次第にドラマティックなヴォーカルを聴かせてくれます。"Anche per te" は Lucio Battisti のカバーで、艶やかなストリングスに乗せた生き生きとしたヴォーカルが印象的です。また、タイトル曲の "Tutti gli zeri del mondo" ではピアノの調べに乗せて女性ヴォーカルとのデュエットを披露しています。

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