Musicadentro

第22号 (13/02/2000)

イタリアの話題ではないのですが、昨年 Yves Simon (France) がなんと11年ぶりにニューアルバムをリリースしていました。音楽活動を休止して文筆業に専念していたので、寝耳に水といった感じで意外でした。久々の新譜もかつての様なインテリジェンス溢れる作風で、長いブランクを感じさせない素晴らしい出来映えでした。イタリアでも何人かしばらく活動していないアーティストがいますが、是非ともカムバックして欲しいものです。

アルバム・カバー

アーティスト名 / アルバム・タイトル (リリース年) レーベル名, レコード番号. (収録曲数)

Angelo Branduardi / L'infinitamente piccolo (2000) EMI, 5 24945 2. (全11曲)

中世音楽からトラッドまでこなす吟遊詩人タイプのベテランカンタウトーレ Angelo Branduardi のニューアルバムは、聖フランチェスコ(キリスト教の聖人)に捧げられたトータルな作品となっています。そうは言っても音楽的には宗教色はほとんどなく、あくまでもポップフィールドの作品としてまとめられており、万人にアピールする内容になっています。中世音楽を追及した近作 "Futuro Antico I & II" での経験と生かし、より昇華された形でポップスとして成立している所はさすがとしか言いようがありません。また、本作では多彩なゲストが参加しているのが特徴で、作品に彩りを添えています。2曲目の "Il Sultano di Babilonia e la prostituta" には Franco Battiato がヴォーカルで参加しており、巨匠の競演を聴くことができます。また、"Audite Poverelle" では NCCP の Fausta と Gianni がヴォーカルとコーラスで、"Nelle Paludi di Venezia Francesco si fermò per pregare e tutto tacque" ではポルトガルの Madredeus の Teresa がヴォーカルで、José がクラシックギターで参加しています。"La morte di Francesco" には Muvrini がヴォーカルとコーラスで参加しており、ラストの "Salmo" は映画音楽界の巨人 Ennio Morricone が作曲しています。Branduardi の作品としては近年で最も傑出したアルバムで、'70年代の名作群にも全くひけを取らない充実した作品となっています。

Francesco Baccini / Nostra signora degli autogrill (1999) Live Music Edizioni, LME 901562. (全11曲)

Genova 出身の中堅カンタウトーレ Francesco Baccini の7枚目になる最新アルバム。今回は Autogrill (ドライブ・イン)のマドンナをテーマにしたトータルな作りになっています。1曲目の "Preghierina" こそ歌詞が掲載されていますが、他の曲には短い注釈しか載っていないという不思議な作品になっています。アルバム全体を通してのストーリー仕立ての構成を取っており、各曲が独立しているにも関わらず、全体を貫く一連の流れが感じられるのが印象的です。オープニングの "Preghierina" はコーラスを配したゴスペル風の曲で、続く "Mio fratello" では一転して HIP HOP 調のヴォーカルワークを聴かせてくれます。"Quand'è che mi dici si" では幾分しゃがれた彼のヴォーカルが切々と訴えかけるバラードになっています。"Fratelli di blues" では Alessandro Haber がゲストで参加しています。また、ラストの "Lunatika" はピアノを主体としたインスト曲です。その他の収録曲もスタイル的には多岐に渡っていますが、全体として非常にバランスの取れた作品に仕上がっていて、全く違和感がないところがいいです。CDケースと一体となったジャケットデザインによる特殊仕様パッケージになっています。

Franco Battiato / FLEURs (1999) Mercury, 546 775-2. (全12曲)

フランス語で「花」を意味するタイトルの Franco Battiato のニューアルバムは、彼には珍しくカバー曲集になっています。1曲目の "La canzone dell'amore perduto" と10曲目の "Amore che vieni, amore che vai" は Fabrizio De André の初期の作品で、如何にも De André の曲らしくほのかに香るフランスっぽさが印象的です。2曲目の "Ruby tuesday" は Rolling Stones の曲で、その他 Sergio Endrigo や Charles Aznavour, Jacque Brel の曲などを取り上げています。全体としてフランスをイメージさせる選曲となっており、盟友 Michele Fedrigotti のピアノといった共通点もあり、Alice の1988年のアルバム "Melodie passagere" を想起させます。どの曲も Michele Fedrigotti の奏でる流麗でクラシカルな調べとストリングスを主体としたアレンジとなっており、非常にノスタルジックな作品に仕上がっています。Battiato がここまでヴォーカルを聴かせることに力点を置いた作品を発表するとは意外であると同時に、ヴォーカリストとしての質の高さを再確認できる力作です。ラスト2曲は自作による新曲ですが、これまたノスタルジックな作品となっており、他のカバー曲と同時代の曲と錯覚するような出来映えとなっています。また、ラストの12曲目 "Invito al viaggio" には実は2曲収録されており、幾分アバンギャルド色のあるラスト・トラックを含めると13曲が収録されていることになります。

Gigi D'Alessio / portami con te (1999) BMG Ricordi, 74321674192. (全11曲)

今年のサンレモ音楽祭のビッグ部門に参加するナポリ出身のカンタウトーレ Gigi D'Alessio のライブアルバムを含めて8枚目となる昨年のアルバム。活動がナポリ・ローカルが中心となっているために今一つ全国区になっていませんが、さわやかなナポリ・ポップスを代表するシンガーです。全体のイメージとしては Il Giardino di Semplici の'80年代の作品を現代的に洗練させたような感じです。彼の声はイタリアには珍しくクリアで高音域に伸びのあるもので、しゃがれ声が主流のイタリアン・ポップス界では逆に印象的です。オープニングの "Buongiorno" から軽快な曲調にさわやかなヴォーカルが乗る特徴的なスタイルを聴くことができます。歌い回しが如何にもナポリのアーティストといった感じの独特のものを持っており、それがマイナー調の曲では一層哀愁感を引き出す要因となっています。そういった意味では "Io che non vivo" や "Dove sei" といった叙情的な曲も魅力的ですが、彼の得意とするのはむしろ前述した "Buongiorno" や "Guagliunce'" などのアップテンポで軽快な曲にあるのではないかと思います。そういった軽快な曲の中にも微かな哀愁が漂っているのはナポリの血のなせる業といっていいかもしれません。歌詞と写真が掲載されたブックレット付き。サンレモ音楽祭の参加をきっかけにより多くの人に聴かれることを期待します。

Camilla / NUOVA DIMORA (1999) Epic, EPC 494709 2. (全18曲)

美人シンガー Camilla のニューアルバム。前作 "Battiti" に比べるとよりクラブ系の作品になっています。全18曲中6曲がイントロや間奏曲なので、実質12曲が収録されていることになります。2曲目の "Il mio fuoco" はカバー曲のようで、"Balla con me" には Tormento がラップで参加しています。"Un istante di te" では幾分ソウルフルな前作を思わせるヴォーカルを聴かせてくれます。また、"Solo un sole" は割合オーソドックスな R&B スタイルの曲で、"Malinconia" はムーディーなヴォーカルが魅力的なスローテンポな曲になっています。"In bocca al lupo" では HIP HOP スタイルのヴォーカルワークを披露しています。全曲イタリア語で歌っているにも関わらず、作品の性格からかほとんどイタリア色が感じられないものの、魅力的な彼女のヴォーカルを充分楽しめるアルバムに仕上がっています。もっとも、聴き込んでいくというよりもBGM的に聴く類のアルバムだとは思います。ジャケットには前作よりもセクシーなファッションに身を包んだ彼女の写真が数点掲載されています。

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