Musicadentro

第91号 (23/03/2008)

世間的にはサンレモも終了して新作のリリース・ラッシュの時期ですが、手元に届くのにもう少し時間がかかりそうなので、今回は昨年秋から今年の2月までにリリースされた新作や再発盤を中心にお送りします。

アルバム・カバー

アーティスト名 / アルバム・タイトル (リリース年) レーベル名, レコード番号. (収録曲数)

Amen

Baustelle / Amen (2008) Atlantic, 5051442612820. (全15曲)

2000年にデビューした若手バンド Baustelle の約2年振りとなる4thアルバム。メンバーは前作から Claudio Chiari (ds, key) が脱退して Francesco Bianconi (vo, g, key), Claudio Brasini (g), Rachele Bastreghi (vo, p, org) の3人になって多数のゲストを迎えて制作されています。オープニングのピアノの響きを生かした小曲 "E cosi' sia" に続いて演奏される "Colombo" ではスコットランドの Bell and Sebastian を想わせる弾けるようなポップな曲調に Francesco と Rachele のツイン・ヴォーカルの掛合いが楽しめる佳曲です。リリカルな響きを湛えたピアノの調べで始まる "Charlie fa surf" は軽快なギターが刻むリズムに乗せて Francesco のジェントリーなヴォーカルが淡々と歌い上げる曲で、サビでは Rachele のコーラスが効果的に配されています。Rachele の囁きかけるような歌声で始まる "Il liberismo ha i giorni contati" でもツイン・ヴォーカル編成を生かしたパート毎の歌い分けや有機的なコーラスを組み合わせてポップな曲を色彩感覚豊かに表現しています。テレビゲームを想わせる電子音が飛び交う "Baudelaire" ではラテンのリズムを導入したエレポップ調の曲に Francesco による無機質なヴォーカルが重なり、摩訶不思議なヨーロピアン・デカダンスを感じさせます。ピアノによるワルツのリズムに乗せた "Alfredo" では語りかけるような2 人の柔らかい歌声が印象的です。前作に較べると曲調もよりポップな感じになって、ツイン・ヴォーカルの編成を生かした曲が増えているのでかなり聴きやすい作品に仕上がっていると思います。パッケージは初回盤はデジパック仕様となっています。

Demonio

Alberto Fortis / Tra demonio e santita' (1980) Universal, 1757455. (全9曲)

'70年代末から活動を続けるベテラン・カンタウトーレ Alberto Fortis の1980年発表のセカンド・アルバムのCD再発盤 (2008年リリース)。デビュー作ではPFMのメンバーの全面サポートを受けていましたが、今作は Roberto Puleo (g), Claudio Fabi (key), Mauro Pagani (vln, harmonica) などの当時の腕利きミュージシャンのバックアップを得て制作されています。オープニングのタイトル曲 "Tra demonio e santita'" はこの時期には珍しい3部構成からなる曲で、リズム・チェンジや転調を巧みに取り入れ、畳み掛けるリズムや飛び交うハーモニカをバックにハイトーン・ヴォーカルで歌い上げるシアトリカルな構成を持った曲に仕上がっています。続く "Dialogo" は囁きかけるような歌い出しからサビのファルセットを用いたヴォーカルへの変化が印象的な小品です。優しく歌いかける "T'innamori" では Roberto Puleo によるオブリガートや終盤の Mauro Pagani のバイオリンによるケルト色の導入など、ポップな曲調にも関わらずサウンド面でいろいろ細工が施されています。ロック色の強い "Prendimi, fratello" では彼の線の細いハイトーン・ヴォーカルと重厚な演奏とのある種のミスマッチ感が不思議な印象を醸し出しています。声質や歌い回しがかなり独特のアーティストなので万人受けはしないと思いますが、彼の初期の作品の中では非常に意欲的な作品なので一聴の価値はあると思います。

Liberamente

Aleandro Baldi / Libertamente tratto (2007) Drycastle Records, DR-013. (全11曲)

'80年代後半から活動を続ける盲目のカンタウトーレ Aleandro Baldi の久々となるニュー・アルバム。曲は全曲彼自身が、詞はプロデュースも担当する Marco Luca Massini との共作となっています。オープニングの "Ricomincio da qui" ではプログラミングによる軽快なリズムに乗せて透明感のあるスケールの大きいヴォーカルを聴かせてくれます。ギターのコードカッティングに導かれた "Felici e contenti" ではまくし立てるような早口のヴォーカルに続いてサビでの哀愁を帯びたメロディを切々と歌い上げています。リズミカルなバッキングと哀愁のあるアコーディオン音色のキーボードに導かれた "Aquila grande" ではエキゾチックなメロディをスケールの大きな歌声で盛り上げています。澱みのないヴォーカルが染み入るような叙情を醸し出す "Quando corro" は地中海風AORともいうべき爽やかな哀感を感じさせる曲に仕上がっています。端正なピアノをバックに切々と歌われる "So che ci sei" では一時期の Gigi D'Alessio を想わせる静かな熱情を感じさせるバラードとなっています。"Greg" は陽光を感じさせるボサノバ調の曲で、シンプルなギターの爪弾きに乗せて軽やかなヴォーカルを聴かせてくれます。ほとんどの演奏はミュージシャンによるものなのに制作費の関係か生ドラムが入った曲が3曲しかない点は少し残念ですが、復帰作としては曲のバリエーションも多くて非常に楽しめる作品になっています。

Melody

Carlo Marrale / Melody Maker (2007) NAR International, NAR 10507 2. (全11曲)

元 Batia Bazar のギタリスト/コンポーザーである Carlo Marrale の3枚目となるソロ・アルバム。Matia Bazar 時代の曲のセルフ・カバーを含めてアコースティック色の強いアレンジでリラックスしたヴォーカルを堪能できる作品となっています。オープニングの "Baciala in bocca" ではチェロによるオブリガートを伴ったボサノバ調のリズムに乗せて肩の力の抜けた軽やかなヴォーカルを楽しめます。Matia Bazar 時代の "Ti sento" ではオリジナルのエレポップ色の強いパートをアコースティックに置き換えて、彼の穏やかなヴォーカルを生かした絶妙なアレンジで聴かせてくれます。レゲエのリズムに乗せて軽やかに歌われる "Controtendenza" では地味ながらも的確なフレーズを奏でる彼のギターを堪能できます。Matia Bazar 時代の代表曲 "Vacanza Romane" はアコースティク・ギターを主体としたラテン色のあるゆったりとしたアレンジでしっとりとしたメロディを歌い上げています。ポルトガル語で歌われる "Docemente" ではゆったりとしたリズムに乗せて本格的なボサノバを聴かせてくれます。アルバム・ラストは再び Matia Bazar 時代の "Nell'era delle automobili" で、ピアノを主体としたバッキングに艶やかなバイオリンによるオブリガートを伴ったノスタルジックなアレンジで聴かせてくれます。パッケージは初回盤はデジパック仕様となっています。

NCA

Sergio Endrigo / nuove canzoni d'amore (1971) Rhino, 5051442-5767-2-6. (全13曲)

'60年代を代表するカンタウトーレ Sergio Endrigo (故人) の1971年のアルバム "nuove canzoni d'amore" に'60年代後半の3曲をボーナストラックとして追加して発売されたCD再発盤 (2008年リリース)。New Trolls の "Concerto Grosso" などで有名な Luis Enriquez Bacalov がアレンジとオーケストラ指揮のみならず、曲作りにも参加しているのが特徴です。オープニングの "La prima compagnia" ではアコースティク・ギターの爪弾きをバックに哀愁を帯びたメロディを切々と歌い上げています。続く "Erano per te" ではバロック色の強い艶やかな音色のストリングスを従えて語りかけるような軽やかなヴォーカルを聴かせてくれます。クラシカルなギターと包み込むようなストリングスをバックに穏やかな歌声を聴かせる "Ma dico ancora parole d'amore" はフランスの Yves Duteil を想わせるファンタジックな小品です。"Le parole dell'addio" では儚い音色のストリングスの波間を浮かんでは消えるようなもの悲しげなメロディを語りかけるように歌うヴォーカルが染み入るような哀愁を感じさせてくれます。本編ラストの "Quando ti lascio" はしっとりとした歌い出しから軽快なリズムに乗せた女性コーラスをフィーチャーしたパートへと移行する躍動感のある曲です。今となっては時代がかったサウンドですが、イタリアのポピュラー音楽の歴史の1ページを飾る作品なので一聴の価値はあると思いますよ。

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